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2007

第2節　獅子神楽

2　大神楽

350～352

　下北地方は獅子神楽のなかでもとくに、修験系神楽の能舞と大神楽とが盛んで。その両者が入り混じりながらしのぎを削っている。
　脇野沢村では、能舞2、大神楽5の神楽組が活動をしている。能舞は本村能舞と蛸田の権現舞で、大神楽は、『脇野沢村史』によると、道中神楽系、目名（東通村）・栗山（むつ市）神楽系、その他の3系統に大別できるという。道中神楽系は、新井田・瀬野神楽で、御子振りがあり、京都風の伝統的な道中神楽で、その獅子舞は雌獅子にもかかわらず、活発で勇壮である。目名・栗山神楽系は、源藤城・滝山・九艘泊神楽である。源藤城は東通村の目名系で、雌獅子、滝山はむつ市の栗山系で、雄獅子である。両者は七琴調であり、東通村目名の三光院から伝承されたものという。九艘泊は師匠が滝山で、栗山系である。その他は、小沢神楽で、両系統にも属さない別種である。
　三光院は下北地方に能舞をもたらせた目名の不動院の末裔と目される。最後の三光院であった菊池英一は東通りの各ムラから舞手を選出して春祈祷の回村巡業を行なっていた。目名神楽はそれとは別で、目名神楽会（目名若者連中）が伝授している大神楽である。
　川内町では、能舞1、大神楽11の神楽組が活動をしている。能舞は湯野川能舞で、大神楽は、上小倉平子ども神楽を含めて11団体あるが、目名・栗山系、蛎崎神楽、その他に大別できる。その他は、神楽囃子だけを伝承する谷地町神楽で、「獅子舞」は行なわれていない。下北地域伝承郷土芸能発表会を編集したビデオ『川内町の神楽（獅子舞）』では、次のように大別している。七琴調の神楽として銀杏木神楽の「踊り獅子」、田野沢神楽の「獅子舞」、畑神楽の「七琴調」。目名系の神楽として宿野部神楽の「獅子舞」、桧川神楽の「獅子舞」。上小倉平系の神楽として上小倉平神楽の「獅子舞」、戸沢神楽の「獅子舞」。蛎崎神楽として蛎崎神楽の「獅子舞」をとりあげている。
　ここにある「七琴調」は「七絃調」「踊獅子」ともいい、盛岡藩のお抱え芸能集団であった盛岡（現岩手県盛岡市）の七軒丁が目名神楽や栗山神楽に伝えた「獅子舞」で、それ以前の「獅子舞」を「平獅子」と呼んで区別した。また、上小倉平神楽は伝承では栗山神楽系統といい、戸沢神楽は東通村の下田屋から伝承されたというから、いずれ目名・栗山系に収斂すると考えられる。
　大神楽は獅子舞を主体とし、曲芸（品玉、曲鞠、皿回しなど）、狂言、万歳、道化舞などをとり入れて演ずる神楽で、「太神楽」「代神楽」とも書き、「代々神楽」ともいう。伊勢神宮（三重県伊勢市）や熱田神宮（愛知県名古屋市）の御師や神人が神楽舞を獅子に代行させて全国各地を回った。江戸時代には伊勢国の吾鞍川村（三重県四日市市）や桑名太夫村（三重県桑名市）を本拠とする伊勢派と、尾張国の繁吉村（愛知県名古屋市）を本拠とする熱田派との2系統の神楽集団があった。その興盛期は江戸時代中期で、両派とも江戸に出たり、諸国を巡回して移住定着した。
　下北地方の大神楽の中核は獅子の霊力によって悪魔を祓い、無病息災を祈り、火伏せの祈祷をする獅子舞で、伊勢の太神楽の系統が伝播してきたとみてよかろう。時期は定かではないが、大神楽師が江戸に出たり、諸国に移住する江戸時代中期以後と考えるべきであろう。
　東通村目名には大神楽伝説があり、いつのころからか不明だが、師職目名権太夫が大神楽を伝えたことにはじまるという。その目名権太夫の名前にちなんで、目名神楽と呼ばれるようになり、また、古くは「布名見」といった集落名も「目名」と呼ばれるようになった。目名神社の草創は不明だが、元々は目名大日堂であり、慶長15年（1610）勧請という。あるいは慶安3年（1650）再建の棟札があったという。明治時代初期の神仏分離令に際し、目名大日堂を神社にするために天照皇大神を改めて祭神として祀って神明宮とし、さらに郷社に昇格して目名神社になった。承応2年（1653）の『盛岡藩雑書』に、目名大日で、御湯立、御神楽を行なったことが記されており、目名大日堂と大神楽との関係が推測されるが、一方で不動院が伝えた能舞との関わりもあり、伝承が錯綜している（『東通村史』『東通村史　歴史編Ⅰ』）。
　『原始謾筆風土年表』には次のような記事がある。

　　○明和二年（一七六五）　目名流の獅子組下風呂より出たりしに関根と鴉沢よ
　　　りも年を追つゝ出たりしか、爰におゐて田植鳥追の女組鴉沢川代より出し
　　　ハ、宝暦六年より中絶たるも、獅子舞の図にや乗し。
　　○天明四年（一七八四）　目名獅子組二年隔に廻しか此頃一年隔る事となり。
　　　当年太神宮におゐて山伏舞を奏セり。これぞ唐の太平楽に擬して伊勢の吾鞍
　　　川にて　れり。
　　○享和元年（一八〇一）　寛政九年より盛岡流の神楽獅子横向町栗山組目名組
　　　小目名組年を追しも出たりしか、当年より小目名組ハ当処祭礼の行列に連な
　　　る事と也しか、三年修して止にけり。

　修験系神楽との混同が多少みられるが、ここでいう「盛岡流の神楽獅子」とは盛岡の七軒丁の獅子舞である。その流れを汲むのが横向町（むつ市横迎町）、栗山組、目名組、小目名組であったことがわかる。その七軒丁の名が同書にはじめて登場するのは文政元年（1818）で、「田名部修験獅子及盛岡御駒太夫神楽」とあり、大畑に田名部の修験獅子（能舞）と七軒丁御駒太夫の神楽獅子がきたのである。以後、七軒丁の来訪が何度かあったかもしれないが、確実なのは文政11年（1828）である。七軒丁御駒太夫は奉祀する盛岡駒形神社の勧化に来訪し、栗山大神楽の7人が「南鐐壱片」（明和二朱銀）を奉納したが、その御駒太夫京助の受取書が栗山神楽会に残されている。
　また、目名神楽会には「文政十年丁亥四月　盛岡七間丁御駒太夫京助」と記された勧化文「御国中／盛岡七軒丁／勧化／御免／蒼前駒形明神御宮修復勧化文」（木版刷り）が所蔵されている。文政10年（1827）から11年にかけて七軒丁が目名や栗山に来たのである。七軒丁の頭取である御駒太夫は、南部氏が甲斐国（現山梨県）から陸奥国三戸（現三戸郡三戸町）入りしたときにウマの口とり役で下向し、三戸ではそのウマを形どった駒形神を祀っていたと伝え、盛岡築城の際に藩主とともに移住し、城の午の方の青物丁（現盛岡市仙北町）に駒形神社を設けて、厩祈祷支配をしていた。また御駒太夫を含め七軒で芸能集団を構成していたところから七軒丁という。七軒丁は、「お駒乗り」（駒枠を腰につけて舞う）、「春田打」（謡に合わせて田打ち、種まきから稲刈り、田の神の祝福までを舞う）、「獅子舞」「万歳」（神力万歳・三河万歳・大峯万歳）、「三番叟」などの祝儀芸能、「狂言」（おかめ狂言）などを藩主の前や城中で演じた。文化年間（1804～17）には藩から江戸に派遣されて、大神楽を習得してきた。また、御駒太夫は他領から来る陰陽家、坊主、山伏、神道家、守札配りなどの下級宗教者、飴やおこし売りなどに対するとり扱いや吟味方、さらには歌舞伎芝居、曲馬、軽業、小芝居、大神楽などの芸人や興行支配を任されていた。その七軒丁が江戸で習った大神楽を目名や栗山に伝授したのである。「七琴調」（七絃調）あるいは「踊獅子」と称される獅子舞はその一つで、目名が保持している「神力万歳」「お江戸万歳」「大峯（お峯）万歳」や「三番叟」「おかめん」「坊主舞」などの多くは七軒丁から伝承されたものであろう。そうして、目名や栗山から下北地方一円に広まって行った。
　栗山神楽保存会所蔵の師弟証文（約定書、承諾書、契約書）には、天保14年（1843）11月の栗山から上田代宛、文久3年（1863）9月の栗山から角違宛、明治7年（1874）旧7月の関根橋から栗山宛、大正8年（1919）1月の出戸から栗山宛、大正8年1月の栗山から出戸宛のものがある。栗山も目名と同様に、江戸時代後期から明治、大正時代にかけて、下北地方各地の若者組（若者連中）と師弟契約をかわして師匠を派遣し、芸を伝授していたことをうかがうことができる。また、『下北－自然・文化・社会』や『むつ市文化財1』によると、この間に栗山を師匠として大神楽を伝習したところは、下北地方全域で約20か所を数える。むつ市では樺山・北関根・出戸・高梨新田・西町（若松町）・大湊上町・城ヶ沢・角違・宇田町・泉沢・金谷の11か所である。むつ市以外では東通村下田屋・上田代・老部、大畑町関根橋、風間浦村桑畑、脇野沢村滝山・九艘泊、川内町上小倉平、横浜町鶏沢・横浜新町などである。
　一方、目名神楽会所蔵の師弟証文類は、文化3年（1806）12月の目名から南関根宛（念書控え）、天保2年（1831）8月をはじめ江戸時代のものが13通、明治時代以降のものが19通にのぼった。なかには手踊りだけを教えたものもあり、必ずしも獅子舞伝授のものばかりではなく、一部で栗山が伝授したものと重複があるが、師弟関係を知ることができる。東通村小田野沢・田屋・老部、大畑町正津川、佐井村矢越・長後・川目・福浦、脇野沢村源藤城、川内町畑・銀杏木・水喰、むつ市南関根・関根・安渡・外山・奥内・高梨・金谷・最花・土手内であった。

大神楽　七絃調　踊獅子　平獅子　七軒丁　大峯万歳　七琴調　坊主舞

脇野沢村史調査団　『脇野沢村史　民俗編』　脇野沢村　1983
盛岡市教育委員会・盛岡市中央公民館　『盛岡藩雑書』第1巻　熊谷印刷出版部　1986
東通村史編集委員会　『東通村史　民俗・民俗芸能編』　東通村　1997
東通村史編集委員会　『東通村史　歴史編Ⅰ』　東通村　2001
村林源助　『原始謾筆風土年表』上・下　青森県文化財保護教会　1960・1961
九学会連合下北調査委員会　『下北－自然・文化・社会』　平凡社　1967
むつ市教育委員会　『第1次文化財調査報告』　むつ市教育委員会　1975

  『脇野沢村史』　国立国会図書館サーチ
  『盛岡藩雑書』第1巻　国立国会図書館サーチ
  『東通村史』　国立国会図書館サーチ
  『東通村史　歴史編Ⅰ』　国立国会図書館サーチ
  『原始謾筆風土年表　上』　国立国会図書館サーチ
  『原始謾筆風土年表　下』　国立国会図書館サーチ
  『下北－自然・文化・社会』　国立国会図書館サーチ
  『むつ市文化財 1』　国立国会図書館サーチ

本項　門屋光昭委員執筆

掲載図版
表Ⅰ-7-2　下北地方の大神楽

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